第2回
昨年発足致しました Kyoto T Cell Conference(KTCC)は、関連分野からも幅広く参加いただくことになり、2年目にしてすでに理想的な内容と規模で開催できることになりました。このことは、T細胞あるいはそれに関連する領域が生物学上の興味ある多くの問題を含んでいるからということもありましょうが、加えてKTCC企画の理念が多くの人達に受け入れられたからではないかと考えます。KTCCはT細胞あるいは血液系細胞の機能や分化機構に関する研究交流の会であると共に、新しい形式の研究会として育てて行きたいと思います。それゆえ、少しくどくなりますがこの研究会に関する世話人の考えを述べさせていただきます。
免疫学の分野にかぎらず数多くの学会やシンポジウムが行われ、学術雑誌もあり余るほど発行されており、知識を得ることあるいは発表の機会ということに関しては十分ではないかという意見もあります。にもかかわらずKTCCを企画したのは、次のような考えに基づいています。免疫学あるいはT細胞研究の領域を見渡した場合、わが国の研究者の貢献は決して小さいものではないと思います。しかし、発見の手がかりとなるあアイデア、新しい実験法の開発など多くの点で欧米の後を追うかたちになっています。たとえばクローン選択説の提唱、T細胞の発見、Vβ抗体の作成とクローン死滅の証明、あるいはセルソーター技術、ハイブリドーマ法、遺伝子クローニング法、トランジェスニックマウス法の開発に日本人の貢献はほとんど無かったと言えましょう。「学問に国境はない」といってかたづけるには、流れが一方的にすぎるように思います。この種の先導的な仕事を注意して見直すと、これらを成し遂げるまでには大変な努力を要したものである反面、アイデア自体は至極単純なものが多いことに気づきます。単純な、あるいは原始的な疑問を発すること、あるいはそれに基づいた仕事をすることのむずかしさは、わが国の風土病であるかのように言われることがあります。ある意味正しいでしょうが、思考様式というものは必ずしも民族のメンタリティのみで規定されるものとは言えないと思います。その原因をつきつめて行くと、学問であれ政治であれすべてに共通していることですが、この国では基本にたちかえって論議する土壌というべきものが培われなかったかまたは風化した状況があったように思えます。そのような土壌を甦らせるなど個人の小さな研究会の手にあまることですが、KTCCはそれを行い得るシステムをかたち作るべく企画したものです。したがってこの会は、“りっぱな講演を拝聴する”というのではなく、参加者全員が意見を持ち寄って会話するための場であります。規模を80人程度にしたのもそのためです。このような新しいこころみを行うには、京都という地は適しているかもしれないと考えます。
KTCCは生まれたばかりであり、試行錯誤の段階にあります。思考の根源を構築するためのシステム作りなどという大それた目標の他に、砕いて気にT細胞研究の討論という目的を持っています。参加者全員の交流をできるだけ推進できるよう、いくつかのこころみを行いました。最初に行う材料の交換会研究者間のネットワークを広げる機会にもなるでしょう。また、ポスターセッションは、従来の学会等では片隅に寄せられている感がありましたが、80人程度の研究会では今後は主要な発表形式になり得るかもしれないと考え、工夫をこらしてみました。
外国からの出席者が1人だけなのに英語で行うミニシンポジウムをつけ加えたことに奇異の感を持たれるかと思います。これは来年度にかなりの数の外国人を加えたシンポジウムを行う可能性が高く、そのための予行演習を兼ねたものです。「言語と思考の空間」を重視するKTCCにはふさわしくないかもしれませんが、必要な妥協とお考え下さい。来年度、国際シンポジウムを行う場合も、今回のように国内のKTCCと結合した形式で行いたいと考えています。
世話人 日合 弘・広川 勝いく・桂 義元
(1992. 10. 1)
日時:1992年10月1日(木)17:00より10月3日(土)16:20まで
場所:JT京都会館
Session 幹細胞とその分化のmechanism(座長 西川 伸一)
1. 西川 伸一 (熊本大学医学部遺伝発生医学研病理)
c-kit/SLF依存性幹細胞システムの構成的及び誘導的活性化
2. 須田 年生 (熊本大学医学部遺伝発生医学研分化制御)
血液幹細胞の発現されるチロシンキナーゼ遺伝子
3. 中内 啓光 (理研ライフサイエンス筑波研究センター)
骨髄幹細胞からT細胞への初期分化におけるc-kitの役割
4. 生田 宏一 (東京大学医学部疾患遺伝制御)
胎生期造血幹細胞からのVγ4T細胞の分化
5. 坂口 薫雄 (鳥取大学医学部免疫学)
Establishment of IL-7 And SCF dependent pre-B cell line in vitro.
Session リンパ球の分化・増殖のmechanism(座長 斉藤 隆)
1. 武藤 正弘 (放射線医学総合研究所生理病理)
S期の正常胸腺細胞に特異的に出現する95kDa蛋白質に対するモノクローナル抗体(Th-10a)
2. 斉藤 隆 (千葉大学医学部高次機能制御研究センター)
T細胞の活性化と細胞周期の調節
3. 湊 長博 (京都大学医学部免疫研)
リンパ球の増殖に関与する新しい遺伝子Spaム1
Session 。 Negative and / or positive selection(座長 鈴木 元)
1. 饗場 祐一 (京都大学胸部疾患研究所免疫学)
T細胞Clonal delectionの機構
2. 中山 俊憲 (東京大学医学部免疫学)
中枢性トレランスの誘導とシグナル伝達−ネガティブセレクションと[Ca 2+]iの上昇−
3. 岩田 誠 (三菱化成生命科学研究所細胞免疫学)
ステロイドホルモンによる胸腺細胞アポプトーシスの制御
4. 鈴木 元 (放射線医学総合研究所障害臨床)
c-fmsプロモーターEαd遺伝子トランスジェニックマウスを用いたマクロファージI-E
分子の自己寛容、抗原提示における機能
5. 小杉 厚 (大阪大学医学部バイオメメディカル教育研究センター)
Instability of assembled T cell receptor complex that is
associated with
rapid degradation of δchains in immature CD4+CD8+ thymocytes.
Session 「 Molecular mechanism of apoptosis(座長 米原 伸)
1. 米原 伸 (JT医薬基礎研究所)
apoptosisを媒介する細胞表層Fas抗原:ヒト胸腺細胞における発現と機能
2. 小林 清一 (北海道大学免疫研病理)
1prマウスT細胞分化とFas抗原
3. 鍔田 武志 (京都大学医学部医化学)
B細胞の活性化とアポトーシス
4. 石田 靖雅 (京都大学医学部医化学)
Induced expression of PD-1, a novel member of the
immunoglobulin gene superfamily,
upon programmed cell death.
Session 」 T細胞分化とレパートリー形成(座長 笹月 健彦)
1. 福井 宣規 (九州大学生体防御医学研究所遺伝学)
T細胞レパートア選択のドグマは正しいか−トランスジェニックマウスからのメッセージ
2. 岸 裕幸 (九州大学生体防御医学研究所感染防御)
未成熟胸腺細胞におけるβT cell receptor(TCR)の発現
3. 坂口 志文 (理研ライフサイエンス筑波研究センター)
Induction of autoimmune disease by germline alteration of
the T-cell receptor gene
expression.
4. 吉開 泰信 (名古屋大学医学部病態制御研生体防御)
Mls-1aをコードする新しいマウス乳癌ウイルス(Mtv)遺伝子
5. 垣生 園子 (東海大学医学部免疫学)
In vitro induction of selective differentiation in
developting thymocytes on thymic
stromal cell clone, TNC-R3.1.
Session 、 Poster sessionのsummaryとdiscussion(座長 日合 弘)
Symposium. Mechanism of differentiation, growth and oncogenesis of lymphocytes
(Chairman, N. Minato)
1. 葛西 正孝 (国立予防衛生研究所血液製剤部)
Molecular invovement of the THB proteins at the
recombination hotspot regions during
rearrangement of the TCR δ locus in early γδT cell
development.
2. 木幡 裕一 (愛知県がんセンター免疫学部)
Abnormal thymic development in a TL transgenic mouse strain.
3. 徳久 剛史 (神戸大学医学部医学研究国際交流センター)
Functional role of c-fos / c-jun in proliferation and differentiation of Lympocytes.
4. 帯刀 益夫 (東北大学抗酸菌病研)
In vitro reconstruction of erythropoietic microenvironment
by the established stromal
cells.
5. R.M.Perlmutter (Department of Immunology, University of Washington)
Involvement of P56 lck in T cell growth, differentiation and transformation.
Poster
1. 荒瀬 尚 偏ったTCRVβ鎖の発現を有するNK1.1+ CD4+ 8 +T細胞の機能
2. 安保 徹 胸腺外および胸腺内T細胞分化の個体発生と系統発生
3. 水落 利明 Medullary but not cortical thymic epithelial cells present soluble antigens to helper T cells.
4. 笠井 道之 胸腺上皮が産生するカテプシン−L前駆体のリンパ球増殖促進作用
5. 倉島知恵理 ヌードマウスの胸腺微小環境に関する免疫組織学的研究
6. 渡部 良広 高酸素下のT細胞分化
7. 浜村 啓介 マウスリンパ造血系細胞上のVLA-4、VLA-5分子の発現と役割
8. 中久木ゆかり 抗胸腺上皮細胞抗体(B6TS-1)の胎生期投与による胸腺構築異常
9. 中村 健一 トロンボキサンA2受容体のマウス胸腺Tリンパ球への局在
10. 多田隅 卓史 CD4+ 8 +胸腺細胞由来リンホーマのT細胞選択機構解明への応用
11. 斉藤 三郎 IgE応答性はIL-1に依存したIL-4産生能で運命づけられる
12. 山元 弘 胸腺上皮細胞株を用いたT細胞初期分化の解析
13. 村上 雅朗 LPL(腸管固有層リンパ球)と腹腔Ly-1B細胞の同源性の検討
14. 土岐 純子 造血幹細胞よりのT細胞分化の解析−clonal delectionについて
15. 伊藤 恒敏 胎仔マウス肝上皮細胞クローンFHC-402によるB前駆細胞の維持
16. 西村 孝司 T細胞初期分化における胸腺ナース細胞クローンの役割
17. 喜納 辰夫 造血系前駆細胞におけるgp107(トランスフェリン・リセプター)の発現